本社ビル見学会を成功させるには丁寧な説明が大事!
有意義な打合せを重ね、見学会の開催日程や見学ルートが決まり、参加者も確定しました。
いよいよ、見学会当日です。
見学会では、事前にさまざまな情報を見学者にインプットして、より効果的な学びの場としてもらいましょう。
というわけで、千代田区丸の内にある、架空の本社ビルを新入社員が見学する想定で、事前説明のための資料を作ってみました。
1. 見学会の目的とゴール
打合せやイベントなどを効果的におこなうには、あらかじめ目的とゴールを設定することが肝心です。
目的は研修を行う理由や意図、つまり「なぜ」を示し、具体的な行動や結果を示すものではありません。
そしてゴールは、目標達成後の理想的な状態を描きます。
ちなみに、目標は、研修などを通じて達成すべき具体的な結果や成果など、数値や行動で計測できるものとなります。
本社ビル見学会の目的
本日の見学会は、大規模オフィスビルの内部構造と運営システムを実際に見学し、不動産の価値を形成する要素について実践的な理解を深めることを目的としています。
本社ビル見学会のゴール
日常的に過ごしているオフィススペースの利用経験に加えて、オフィスビルの主要設備や環境対策、BCP対策などを実地で学ぶことで、不動産の評価・管理・運営に関する多面的な視点を身に着け、今後の業務に活かせるようになることが、この見学会のゴールとなります。
2. 丸の内エリアの特徴
出典:三菱地所の歩み
丸の内エリアは、日本の経済の中心地として長い歴史を持つ地域です。
この地域の特徴として、以下の点が挙げられます。
✔ 丸の内エリアの特徴
・ まちづくりガイドラインによる街並み形成
・ 地域冷暖房システムによる熱源供給
・ 想定最大規模浸水深0.5m以上の低地
・ 鉄道網・バス・駐車場などの交通利便性
まちづくりガイドラインによる街並み形成
出典:大手町・丸の内・有楽町まちづくりガイドライン2023(一部加工)
皇居からのすり鉢状スカイラインを形成するとともに、主要な通りに面して歴史的な 31m(百尺)のスカイラインを表情線等として継承していくことが求められています。
地域冷暖房システムによる熱源供給
丸の内エリアには地域冷暖房システムが導入されており、たとえば東京駅の北側にある丸の内一丁目をみてみますと、丸の内オアゾに設置されたメインプラントや2つのサブプラントから熱供給を受けています。
出典:千代田区ハザードマップ神田川版(一部加工)
皇居東側は低地部であり、丸の内エリアの北側をながれる神田川や日本橋川は水位の上昇がはやいという特徴があるため、止水板による防水にくわえて浸水対策が必要となります。
鉄道網・バス・駐車場などの交通利便性
出典:三菱地所オフィス情報(一部加工)
丸の内は交通の要衝となっており、オフィスビルや商業施設などが集積しているため、災害発生時には帰宅困難者が多く発生することが予想されます。
丸の内エリアのメリットと課題
これらの特徴により、丸の内エリアは統一感のある美しい街並みと高効率なエネルギー利用を実現しているほか、災害時の対策にも力を入れる必要のあるエリアとなっています。
3. 本社ビルの概要
本社ビルは、東京駅至近で皇居の見渡せる立地にあります。
ビルの再開発にともなって、土地や建物の所有構造は複雑になっています。
本社ビル敷地の権利関係
本社ビルは3つの土地の上に建っています。
✔ 本社ビル敷地の構成
・ 親会社がA信託銀行に信託している土地
・ B社とC信託銀行とで共有している土地
・ 三菱地所が所有する土地
さまざまな権利関係の土地の上に建てられた建物は、複雑な賃貸借契約を締結する必要がありますので、注意が必要です。
本社ビル敷地上建物の権利関係
本社ビル敷地上建物は、我々のグループ会社、B社、三菱地所の3社による区分所有となっています。
✔ 本社ビル建物の構成
・ 丸の内ガーデン
・ 丸の内タワー(本社ビルとB社社屋)
これら2棟の建物は地下や一階レベルの大きな屋根のある空間でつながっており、一般利用者の憩いの場となっています。
丸の内タワーは、我々グループ会社の本社ビルとB社社屋とで構成されていて、内部は壁で区分けされ、エレベーターや階段などの動線も分けられています。
賃貸借契約上の工夫
以上のような複雑な権利関係により、本来は賃料がさまざまな区分所有社からさまざまな土地所有者に対して支払われなければなりません。
そこで、賃料が相殺できるように、賃貸借契約の内容が工夫されています。
4. ビルの基本構造
本社ビルは、ほぼ中央に階段やエレベーター、給排水設備、機械室、配管スペースなどが集約されているセンターコア型のオフィスビルです。
センターコア型のメリット
出典:東京建物オフィスビル情報(一部加工)
センターコア型のオフィスの主な利点は以下の通りです。
✔ センターコア型のメリット
・ 採光の確保が容易
・ 執務スペースとコアの動線が短い
・ バランスが良く耐震性能が向上
センターコア型のオフィスとすることで、快適で安全なオフィス環境が提供されています。
コアの位置はさまざま
出典:PLANTEC(ソニーシティ)(一部加工)
ソニーグループ㈱の本社であるソニーシティは、分散コア型のオフィスビルです。
コアの位置は、建物のコンセプトや立地により決まります。
5. 主要システムの説明
a) 電力供給システム
– 隣接する丸の内ガーデンのコアシェルで特高受電
– 8階のタワー受電室で受電
– 停電時にはUPS室で10分間の電力維持
– 停電時には保安用発電機室の2台の発電機を重油で起動
– 中圧ガスを使用して1週間の電力供給
b) 水供給システム
– 地下ピットに汚水、雨水、中水を貯蔵
– 中水は6階や7階の厨房で使用された水を処理して作成
– 不足時は雨水や上水を使用
– 屋上に上水と中水の高置水槽を設置
c) 空調システム
– 地下のDHC室で地域冷暖房システムから熱供給を受ける
– 熱源機械室で蒸気を温水に変換し、ビル内を空調
– 屋上のチラーと執務室天井の空調機械で空調
オフィススペース天井裏などに設置された空調機とバルコニーや屋上に設置されたチラーによる空調とのハイブリッド運用となっており、DHCからの供給が停止した場合でも一定の空調が得られるようになっています。
ちなみに、都心部のオフィスビルにおいて容積率の緩和をうけることは、土地の効率的な活用や収益性の観点から重要です。
✔ 容積率の緩和をうける方法の例
・ 特定街区制度に基づく公開空地の設置
・ 総合設計制度に基づく公開空地の設置
・ 歴史的建造物等の保存と容積移転
・ 環境性能や防災性能の向上
・ 高度な機能集積
東京都では、以下の法令に基づく東京都容積率の許可に関する取扱基準(平成16年4月施行)を定めており、本社ビルはその基準に基づく容積率の緩和をうけています。
(容積率)
第52条
14 次の各号のいずれかに該当する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの容積率は、第一項から第九項までの規定にかかわらず、その許可の範囲内において、これらの規定による限度を超えるものとすることができる。
一 同一敷地内の建築物の機械室その他これに類する部分の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場合におけるその敷地内の建築物
出典:建築基準法52条14項(1〜13項、14項2〜3号、15項は省略)
d) BCP対策
– 8階に中央監視室を設置し、水害対策を実施
– 発電機2基による1週間の電力供給能力
電力供給がなくなった場合は、UPSによる10分間の電力供給のあいだに発電機を地下タンクにある重油で起動し、厨房への電力供給を止めたうえで全館に電力を供給します。
都市ガス(中圧)の供給が継続されている場合は、都市ガスに切り替えて運用しますが、ガス供給がなかったとしても、夜間は省エネルギーのために片側の発電機のみをうごかすなどして、一週間の電力を維持できる想定になっています。
パソコンなどへの電力供給を優先し、壁のコンセントからの供給を止めることもできます。
DHCが熱供給を停止したとしても、発電機からの電力供給により、屋上のチラーと天井の二次空調機をつかって空調できるようにしています。
6. 環境配慮と省エネ対策
– 小規模なソーラーパネルを設置し、8階の共用部に電力を供給
– 地域冷暖房システムの活用により、個別のボイラーやチラーの設置を最小限に抑制
– PH1階、PH2階の床を金属製メッシュにし、屋上の熱こもりを防止
7. 各階の主要設備
地下階:
– 電気室:受電した電力の電圧をさらに下げるための変電設備
– ブースターポンプ室:水圧を調整するためのポンプ設備
– 熱源機械室:空調用の熱源を管理
– DHC室:地域冷暖房システムからの熱を受け入れる設備
– 中水処理室:使用済み水を処理し、再利用するための設備
8階:
– 保安用発電機室:非常時の電力供給を担う発電機を設置
– タワー受電室:丸の内ガーデンから電力を受電し、ビル内に配電
– UPS室:瞬間的な停電に対応する無停電電源装置を設置
– 空調機械室:ビル全体の空調を管理
屋上:
– エレベーター機械室:エレベーターの駆動装置を収納
– チラー置場:追加で必要になった空調用冷却装置を設置
– 緊急救助スペース:災害時の救助活動のためのスペース
– ゴンドラ置場:外壁清掃用ゴンドラの収納場所
– 高置水槽:上水と中水を貯蔵し、重力を利用して供給
8. 見学ルートの説明
見学は以下の順序で行います:
1. 28階特別会議室:概要説明(13:30開始)
2. 地下4階:電気室、ブースターポンプ室、熱源機械室、DHC室、中水処理室
3. 8階:保安用発電機室、タワー受電室、UPS室、空調機械室、設備増設用予備バルコニー
4. 屋上:エレベーター機械室、チラー置場、緊急救助スペース、ゴンドラ置場
5. 28階特別会議室:質疑応答と解散
所要時間は約2時間を予定しています。
9. 注意事項
安全確保のため、以下の点にご注意ください:
– 熱源機械室などの機器や配管類は高温のため、近づいての見学は禁止します。
– 電気室では感電の可能性があるため、機器に触れないでください。
– 飲み物の持ち込みは禁止します。屋上にいく手前でこちらの会議室にて小休憩をとりますので、トイレへ行ったり、水分補給をしたりしてください。
– 階段の昇降時は手すりを使用し、足元に注意してください。
– 写真撮影は原則として禁止です。
– 屋上など通常人が立ち入らない場所は床面に凹凸があります。足元に注意してください。
– 体調不良を感じた方は、早めに近くの引率者に声がけください。
– 見学中は引率者の指示に従ってください。
10. まとめ
本日の見学会を通じて、大規模オフィスビルの複雑さと重要性をご理解いただけると思います。
本社ビルは、様々なインフラに依存しながらも、非常時には自立して機能を維持できるよう設計されています。
現代のオフィスビルは、単なる箱ではなく、高度に制御された環境を提供する複雑なシステムの集合体です。
電力、水、空調、セキュリティなど、多岐にわたる設備が24時間365日稼働し、快適で生産性の高いオフィス環境を支えています。
同時に、環境への配慮や省エネルギー対策も重要な要素となっています。
地域冷暖房システムの活用やソーラーパネルの設置など、ビル単体だけでなく、地域全体でのエネルギー効率の向上に貢献しています。
また、災害時や非常時に備えたBCP対策も重要な要素です。発電機による長時間の電力供給能力や、重要機能の高層階への配置など、様々な対策が講じられています。
これらの知識は、不動産業界で働く上で非常に重要です。
建物の設計、管理、運用、さらには不動産投資の判断においても、これらの要素を理解し、考慮することが求められます。
本日の経験を今後の業務に活かし、より深い専門知識の習得につなげていただければ幸いです。
11. Q&Aセッション
ここからは質疑応答の時間とさせていただきます。
見学を通じて疑問に思ったこと、さらに詳しく知りたいことなどがありましたら、どうぞご質問ください。